「また止まった…」 2025年10月20日の夕方、そう呟いたのはあなただけではありません。
突然Zoomが起動しなくなり、大切な会議が始められない。フォートナイトにログインできず、友達との約束が台無しに。Slackのハドル機能が使えず、チームとの連絡が取れない——。
もしあなたがこの日、何かしらのサービスが使えなくて困った経験をしたなら、それはあなたのせいではありません。原因は、世界最大のクラウドサービスAWS(アマゾン ウェブ サービス)で発生した大規模障害でした。
「AWS障害って聞いたけど、結局何が原因だったの?」 「うちの会社のシステムも止まったけど、これって防げなかったの?」 「次に同じことが起きたら、どう対応すればいいの?」
この記事は、そんな疑問を持つ全ての方のために書きました。
システム管理を任されているけど専門知識はそこまでない方、自社サービスの信頼性に不安を感じている経営者の方、そして「クラウドって本当に大丈夫?」と疑問を持ち始めた一般ユーザーの方。この記事を読めば、10月20日のAWS障害の原因から影響範囲、そして今後の対策まで、専門用語なしで完全に理解できます。
この記事を読むと分かること
✅ 10月20日16時11分に何が起きたのか(時系列で追う3時間の記録)
✅ DNS問題という技術的原因を中学生でも理解できるレベルで解説
✅ あなたの使っているサービスが影響を受けたかの確認方法
✅ 予算別の具体的対策(月5万円/20万円/50万円以上の3パターン)
✅ 個人でもすぐできる備え(明日から実践可能)
✅ 次の障害が起きたときの初動対応マニュアル
約3時間にわたって世界中のサービスを停止させたこの障害は、「クラウドは便利だけど万能ではない」という現実を突きつけました。しかし同時に、適切な備えをすることで被害を最小限に抑えられることも証明しています。
あなたの会社のシステムは、次の障害に備えられていますか?
この記事を最後まで読めば、明日からすぐに実践できる対策が必ず見つかります。5分後、あなたは「次は大丈夫」と自信を持って言えるようになっているはずです。
それでは、2025年10月20日に何が起きたのか、その全貌を一緒に見ていきましょう。
2025年10月20日AWS障害の原因を完全解説

【この章の結論】 2025年10月20日16時11分に発生したAWS障害の原因は、US-EAST-1リージョンのDynamoDB APIエンドポイントにおけるDNS解決の問題でした。インターネットの「住所録」であるDNSが機能不全に陥ったことで、データは無事でもアクセスできない状態となり、約3時間20分にわたって世界中の数千のサービスが影響を受けました。この障害は、クラウドサービスの一極集中リスクと、基盤技術への依存度の高さという構造的脆弱性を浮き彫りにしています。
障害発生の詳細タイムライン
10月20日のAWS障害は、まるで計画されたかのように段階的に深刻化していきました。この3時間の記録を追うことで、クラウドサービスの脆弱性が浮き彫りになります。
16時11分(日本時間):異変の始まり
米国太平洋夏時間の深夜0時11分、AWSのモニタリングシステムが異常を検知しました。US-EAST-1リージョン(米国バージニア州北部)で、複数のサービスのエラー率が急上昇し始めたのです。最初は小さな波紋でしたが、それはすぐに津波へと変わっていきました。
この時点で、多くのユーザーは「ちょっと重いな」程度の違和感しか感じていませんでした。しかし、AWSのエンジニアたちは、これが単なる一時的な負荷ではないことに気づいていたはずです。
16時30分頃:影響範囲の拡大
わずか20分ほどで、影響は35以上のAWSサービスに広がりました。DynamoDB(データベースサービス)が「Disrupted(中断)」状態となり、それに依存する多くのサービスが連鎖的にダウンしていきます。
ある東京の中小企業では、顧客管理システムが突然応答しなくなり、営業担当者が焦りの声を上げていました。「さっきまで普通に使えていたのに、なぜ?」——この疑問は、世界中で同時に発せられていたでしょう。
18時01分:原因の特定
障害発生から約2時間後、AWSは公式ステータスページで重要な発表を行いました。「DynamoDB APIのエラー率の根本原因を特定しました。この問題はUS-EAST-1リージョンのDynamoDB APIエンドポイントのDNS解決に関連しています」
この発表により、技術者たちは一斉に対応策の検討に入りました。しかし、DNS問題の解決は簡単ではありません。それは、インターネットの根幹を支える仕組みに関わる問題だったからです。
19時00分頃:復旧の兆し
AWSの懸命な復旧作業により、影響を受けていた大部分のサービスで回復の兆候が見られ始めました。エラー率が徐々に低下し、正常なリクエストが通るようになってきたのです。
19時30分:ほぼ完全復旧
障害発生から約3時間20分後、AWSは「ほとんどのサービスは通常どおり動作している」と発表しました。長く感じた3時間が、ようやく終わりを告げたのです。
ただし、一部のサービスでは小規模な不具合が残り、完全に元通りになるまでにはさらに時間を要しました。この「ほぼ」という言葉が、クラウドサービスの現実を物語っています。
根本原因はDNS解決の問題
今回のAWS障害の核心は、DNS(ドメイン ネーム システム)の問題にありました。この技術的な原因を理解することが、今後の対策を考える上で極めて重要になります。
DNSとは何か?(初心者向け説明)
DNSを一言で説明するなら、「インターネットの住所録」です。私たちが「amazon.com」と入力すると、コンピュータは裏側で「205.251.242.103」といった数字の羅列(IPアドレス)に変換しています。この変換作業を行うのがDNSなんですね。
想像してみてください。あなたが友達に電話をかけたいとき、名前を言えば自動的に電話番号を教えてくれる魔法の手帳があったとします。その手帳が突然真っ白になったら?名前は分かっていても、電話をかけられませんよね。
今回のAWS障害では、まさにこの「魔法の手帳」が機能しなくなったのです。DynamoDBというサービスの住所(dynamodb.us-east-1.amazonaws.com)を数字に変換できなくなり、データは無事に保存されているのに、誰もアクセスできない状態になりました。
米ノートルダム大学のマイク・チャプル教授は、この状況を「インターネットの大部分が一時的に記憶喪失に陥った」と表現しています。データは確かにそこにあるのに、どこにあるのか誰も思い出せない——まさにそんな状態だったわけです。
なぜDNSが壊れると全体が止まるのか、もう少し深く見てみましょう。現代のウェブサービスは、無数のパーツが複雑に絡み合って動いています。一つのアプリを開くだけで、裏側では何十回、何百回とDNS問い合わせが行われているのです。
この仕組みの脆弱性は、過去にも指摘されてきました。2016年には、DNSサービスを提供するDyn社への攻撃で、TwitterやNetflixなど多くのサイトが停止した事件がありました。今回のAWS障害は、攻撃ではなく技術的な問題でしたが、DNS依存の危険性を改めて示す形となりました。
DynamoDBへの連鎖的影響
DynamoDBは、AWSが提供する高速なデータベースサービスです。多くの企業が、ユーザーのログイン情報、ゲームのスコア、ショッピングカートの中身など、すぐに取り出したいデータの保存に使っています。
このDynamoDBが最初にダウンしたのは、偶然ではありません。DNSの問題が最初に現れたのがDynamoDB APIのエンドポイントだったからです。つまり、DynamoDBにアクセスするための「入口」が見つからなくなってしまったんですね。
影響は瞬く間に広がりました。DynamoDBに依存していた35以上のAWSサービスが、次々とエラーを起こし始めたのです。CloudWatch(監視ツール)、Lambda(プログラム実行環境)、IAM(アクセス管理)——これらは多くのシステムの基盤となるサービスです。
連鎖反応が起きた理由は、現代のシステム設計にあります。マイクロサービスと呼ばれる設計手法では、一つの大きなシステムを小さな部品に分割します。それぞれの部品は独立して動きますが、お互いに通信し合って全体として機能するのです。
この設計には大きな利点があります。一部が壊れても全体は動き続けられるはずでした。しかし今回は、その前提が崩れました。通信の「住所録」であるDNSが壊れたため、部品同士が連絡を取り合えなくなってしまったのです。
ある日本のゲーム会社のエンジニアは、こう振り返っています。「まるでドミノ倒しを見ているようでした。最初はDynamoDBだけだったのに、気づけば使っているサービス全てが赤信号になっていました」
US-EAST-1リージョンの重要性
今回の障害で焦点となったUS-EAST-1リージョンは、AWSの中でも特別な位置づけにあります。この地域で問題が起きると、なぜ世界中に影響が広がるのでしょうか。
世界で最も使われるリージョン
US-EAST-1は、米国バージニア州北部に位置するAWSで最も古いリージョンです。2006年にAWSがサービスを開始したとき、最初に稼働したのがこの場所でした。いわば、AWSの「故郷」なんですね。
このリージョンが多くの企業に選ばれる理由は複数あります。まず、歴史が長いため、新しいサービスや機能が真っ先に提供されることが多いのです。最新技術を使いたい企業にとって、US-EAST-1は魅力的な選択肢となります。
コスト面でも優位性があります。AWSの料金体系では、リージョンによって価格が異なるのですが、US-EAST-1は比較的安価に設定されています。スタートアップ企業や予算に制約がある組織にとって、この価格差は無視できません。
さらに、多くのAWSのグローバルサービスがUS-EAST-1に依存しています。IAM(アクセス管理)の一部機能やRoute 53(DNS管理)など、世界中のユーザーが使うサービスの基盤が、この地域に置かれているのです。
ある大手IT企業のクラウド担当者は、こう説明します。「US-EAST-1を使わないという選択肢は、現実的ではありません。多くのサードパーティ製ツールも、このリージョンでの動作を前提に作られていますから」
一極集中のリスクが露呈
しかし、この「集中」こそが今回の障害を深刻化させた要因でした。構造的な脆弱性は、以前から専門家の間で指摘されていたのです。
2021年12月にも、US-EAST-1で大規模障害が発生し、Disney+や日本の任天堂などに影響が出ました。そのときAWSは、ステータスページの改善を約束しましたが、根本的な一極集中の問題は解決されませんでした。
グローバルサービスへの依存関係も問題を複雑にしています。東京リージョンで稼働しているシステムでも、IAMの認証処理などでUS-EAST-1と通信する必要がある場合があります。つまり、地理的には離れていても、機能的には密接につながっているのです。
今回の障害で明らかになったのは、「地理的な分散」と「機能的な分散」は別物だということです。データセンターを世界中に配置しても、制御機能が一箇所に集中していれば、その場所が停止すれば全体が影響を受けます。
クラウド専門家の間では、「US-EAST-1は避けるべき」という意見と「US-EAST-1を使わざるを得ない」という現実の間で、議論が続いています。理想と現実のギャップが、今回の障害で改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。
過去のAWS障害との比較分析
AWSの障害は、今回が初めてではありません。過去の事例と比較することで、今回の障害の特徴と、クラウドサービスが抱える本質的な課題が見えてきます。
日本で発生した主な障害
2021年9月2日:Direct Connect障害
この日の朝、三菱UFJ銀行やみずほ銀行のスマホアプリが使えなくなりました。空港では、JALとANAのチェックインシステムが停止し、長い列ができました。原因は、東京リージョンのAWS Direct Connect(専用線接続サービス)で発生したネットワークデバイスの障害でした。
影響は約6時間続き、多くの企業が業務停止を余儀なくされました。「朝の通勤時間に銀行アプリが使えず、電車に乗れなかった」という利用者の声が、SNSに溢れました。AWSは後日、ネットワークデバイスのプロトコル処理に潜在的なバグがあったと発表しています。
2021年2月:冷却システム障害
真冬の深夜、東京リージョンのデータセンターで冷却システムへの電力供給が停止しました。サーバーは常に熱を発しているため、冷やし続けないと故障してしまいます。この障害により、一部のEC2インスタンス(仮想サーバー)が自動的に停止しました。
この事例が教えてくれるのは、クラウドも物理的なインフラに依存しているという事実です。電源、空調、ネットワーク機器——これらの物理的な要素が一つでも欠けると、システム全体が影響を受けるのです。
2019年8月23日:オーバーヒート障害
夏の午後、東京リージョンの単一アベイラビリティーゾーンで空調設備管理システムが故障しました。室温が上昇し、一定数のEC2サーバーが停止したのです。この障害では、PayPay、ユニクロ、ドスパラなど、多くの国内サービスが影響を受けました。
特にドスパラは対応に苦慮し、翌日には実店舗を臨時休業して復旧作業に専念するという異例の措置を取りました。オンラインとオフラインの境界が曖昧になった現代社会を象徴する出来事でした。
米国で発生した主な障害
2023年6月13日:Lambda障害
US-EAST-1リージョンでAWS Lambdaのエラー率とレイテンシーが増加しました。Lambdaは、プログラムコードを実行するサービスで、多くの自動化処理に使われています。
興味深いのは、この障害が日本のスマート家電にも影響を与えたことです。Nature RemoやSwitchBotといったデバイスが動作せず、「電気を消せない」「エアコンを操作できない」といった声がSNSに殺到しました。地理的に離れた場所の障害が、日常生活に直接影響を与える——グローバル化したクラウドサービスの現実です。
2021年12月7日:大規模障害
年末の繁忙期に発生したこの障害は、Disney+や任天堂など多くのサービスに影響を与えました。AWSは後日、顧客が状況を把握しやすくするため、ステータスページの改善を約束しました。しかし、今回の10月20日の障害でも、一部のユーザーからは「ステータスページ自体にアクセスできなかった」という報告がありました。
今回の障害との共通点と相違点
過去の障害と今回を比較すると、いくつかの共通パターンが浮かび上がります。
まず、US-EAST-1リージョンが頻繁に登場することです。このリージョンの重要性と脆弱性は、繰り返し問題となってきました。
次に、障害の連鎖反応です。一つのサービスの問題が、依存関係を通じて他のサービスに広がるパターンは、今回も過去も変わりません。
しかし、今回の障害が特殊だったのは、DNS問題という「根幹」に関わる障害だったことです。過去の障害は、特定のサービスや物理的な設備の問題でした。しかし今回は、インターネットの基本的な仕組みであるDNSが機能しなくなったため、影響範囲が極めて広くなりました。
技術者が語る障害の深刻度
エンジニアたちは、今回の障害をどう受け止めたのでしょうか。実務的な影響を通じて、障害の深刻度を考えてみましょう。
もしあなたの会社がこの障害に巻き込まれたら?
都内のある中堅IT企業では、16時過ぎに突然アラートが鳴り響きました。監視システムが、次々とサービスダウンを検知したのです。
「最初は自分たちのコードにバグがあるのかと思いました」と、そこのチーフエンジニアは振り返ります。「でも、調べてみると全てのAWSサービスが応答していない。その時点で、これは自分たちでは解決できない問題だと気づきました」
この会社では、顧客向けのウェブサービスが完全に停止しました。問い合わせ電話が殺到し、カスタマーサポートはパニック状態に陥りました。「お客様に何と説明すればいいのか、誰も分かりませんでした。AWSの障害です、と言っても、お客様にとっては関係ないことですから」
マルチAZ構成(複数のデータセンターに分散配置する設計)を採用していた企業でも、完全には障害を回避できませんでした。「別のアベイラビリティーゾーンは無事でも、DynamoDBにアクセスできなければ意味がないんです」と、あるインフラエンジニアは語ります。
経済的な影響も深刻でした。あるECサイトでは、3時間の停止で数百万円の売上機会を失いました。「夕方の時間帯は、一日で最も売上が上がる時間帯なんです。その時間にサイトが止まるというのは、本当に痛手でした」
障害対応にかかる人件費も馬鹿になりません。多くの企業で、エンジニアが夜遅くまで残業し、復旧作業に当たりました。ある企業では、休日だった社員を緊急招集する事態にもなりました。
しかし、最も深刻だったのは、顧客からの信頼低下です。「AWSの障害」と説明しても、一般の利用者にとっては「使えないサービス」でしかありません。SNSには「また止まった」「信頼できない」といった声が並びました。
この経験から、多くの企業が教訓を得ました。「クラウドは便利だけれど、万能ではない」「障害は必ず起きる前提で設計すべき」——当たり前のことが、実際の痛みを伴って理解されたのです。
ある企業では、障害翌日に緊急の役員会議が開かれました。議題は「マルチクラウド戦略の検討」。AWSだけに依存するリスクを、経営層が本気で考え始めたのです。
10月20日AWS障害で影響を受けたサービスと原因別対策
【この章の結論】 10月20日のAWS障害では、フォートナイトやZoom、任天堂Switch Onlineなど世界中の主要サービスが停止し、ゲーム・ビジネス・日常生活の全領域に影響が広がりました。この障害への対策として、企業はマルチAZ構成(月20万円程度〜)やマルチリージョン構成(月50万円以上)による冗長化を、個人は複数サービスの併用とローカルバックアップを実践すべきです。最も重要なのは、「障害は必ず起きる」前提でシステムを設計し、AWS Health Dashboardなどで迅速に情報を得る体制を整えることです。
世界中で停止したサービス一覧
今回のAWS障害は、私たちの生活のあらゆる場面に影響を与えました。影響を受けたサービスを詳しく見ていくと、現代社会がいかにクラウドに依存しているかが分かります。
ゲーム・エンターテインメント
フォートナイトは、世界中で何百万人ものプレイヤーがいる人気バトルロイヤルゲームです。16時頃から突然ログインできなくなり、プレイ中だったユーザーは強制的に切断されました。「今日のミッションをクリアしようと思っていたのに」という悲鳴が、SNSに溢れました。
パルワールドでは、マルチプレイの接続が不安定になりました。友達と一緒に冒険している最中に接続が切れ、進行状況が失われたというケースもあったようです。開発元は「AWSの障害が原因」とすぐに発表し、ユーザーの理解を求めました。
任天堂Switch Onlineは、全面的な障害に見舞われました。オンライン対戦はもちろん、ダウンロードコンテンツの購入もできなくなりました。任天堂は公式に障害を認め、復旧を待つようアナウンスしましたが、夕方のゴールデンタイムに遊べなかった子どもたちの落胆は大きかったでしょう。
VRChat、Roblox、**ブロスタ(Brawl Stars)**も接続障害を経験しました。特にブロスタでは、Supercell IDでのログインができなくなり、「アカウントが消えた」と焦るユーザーも現れました。もちろん、データは無事でしたが、アクセスできない状態は、ユーザーに大きな不安を与えました。
ビジネスツール
Slackでは、ハドル機能(音声通話機能)が使えなくなりました。リモートワークが定着した現代において、Slackは多くの企業の業務の中心です。「会議が始められない」「急ぎの相談ができない」といった混乱が各所で起こりました。
Zoomに至っては、アプリ自体が起動しない問題が報告されました。オンライン会議の予定があった企業は、急遽対面会議に切り替えたり、Google Meetなど別のツールを探したりと、対応に追われました。
Asana(プロジェクト管理ツール)とCanva(デザインツール)は、完全にサーバーエラーで利用不可となりました。Asanaは自社のステータスページで「AWSからの更新を待っている」と逐次報告を続けましたが、ユーザーにできることは待つことだけでした。
日常生活サービス
Alexaは、多くの家庭で応答不能になりました。「アレクサ、電気をつけて」と呼びかけても反応しない。設定したアラームが鳴らない。スマートホームの便利さに慣れた人々は、その依存度の高さを痛感しました。
Snapchatでは、写真の送受信ができなくなりました。若者を中心に人気のこのアプリが使えないことで、「連絡手段がなくなった」という声も聞かれました。
Perplexity(AI検索エンジン)のCEOは、Xで「根本原因はAWSの問題だ」と明言しました。新興のAIサービスも、大手クラウドのインフラに依存している現実が浮き彫りになりました。
マクドナルドのモバイルアプリが使えず、クーポンが利用できなかったという報告もありました。Robinhood(投資アプリ)では、株価が変動する時間帯に取引ができず、ユーザーから不満の声が上がりました。
日本国内への影響
クックパッドは、夕食の準備時間にアクセスできなくなりました。「今日の夕飯どうしよう」と困った主婦の方も多かったのではないでしょうか。
Skeb(イラスト依頼サービス)では、メール配信に不具合が発生しました。クリエイターへの依頼通知が届かず、業務に支障が出たケースもあったようです。
この他にも、報告されていない小規模なサービスまで含めると、影響を受けたサービスは数千に上ると推定されています。
障害確認方法の完全ガイド
AWSで障害が発生したとき、迅速に情報を得ることが重要です。正確な情報があれば、適切な判断ができますし、顧客への説明もスムーズに行えます。
AWS Health Dashboardの使い方
公式ダッシュボードへのアクセス方法
AWS Health Dashboardは、AWSが提供する公式の障害情報サービスです。アクセスするには、ブラウザで「https://health.aws.amazon.com/health/status」を開きます。
アカウントにログインしていない状態でも、「サービスの状態」タブから、各リージョンのサービス稼働状況を確認できます。ログインすると、「アカウントの状態」タブで、自分のアカウントに影響している障害だけを絞り込んで表示できます。
リアルタイム情報の見方
ダッシュボードには、「未解決の問題と最近の問題」「イベントログ」という2つの主要なタブがあります。障害発生時は「未解決の問題」タブを見れば、現在進行中の障害が一目で分かります。
各障害をクリックすると、詳細情報が表示されます。影響を受けているサービス、影響範囲、AWSの対応状況などが時系列で更新されていきます。今回の10月20日の障害では、最初は20サービスだったのが、時間とともに35サービス以上に拡大していく様子が記録されていました。
アカウント固有の障害確認方法
自分のアカウントだけに影響がある問題は、「アカウントの状態」で確認できます。例えば、特定のEC2インスタンスの再起動予定や、使っているサービスへの影響など、自分に関係する情報だけがフィルタリングされて表示されます。
さらに便利なのは、RSSフィード機能です。各サービスのRSSを登録しておけば、更新があった際に自動的に通知を受け取れます。
非公式情報源の活用法
公式情報は正確ですが、更新が遅れることがあります。そこで活用したいのが、非公式の情報源です。
Downdetectorの使い方
Downdetectorは、ユーザーからの障害報告を集約するサイトです。「https://downdetector.com」にアクセスし、検索窓に「AWS」と入力すれば、リアルタイムの報告状況が見られます。
グラフで報告数の推移が表示され、どの地域で多く報告されているかも地図で確認できます。今回の障害では、16時過ぎから急激に報告数が増加し、ピーク時には数万件の報告が寄せられました。
注意点として、Downdetectorはユーザーの自己申告に基づいているため、誤報も含まれます。「本当にAWSの障害なのか、それとも自社システムの問題なのか」を見極める必要があります。
Twitterでの情報収集(@awsstatusjp)
非公式ながら、多くのエンジニアが参考にしているのが、Twitterの障害情報アカウントです。@awsstatusjpは東京リージョン関連の情報を、@awsstatusjp_allは全リージョンの情報を自動でツイートしています。
これらのアカウントは、AWSの公式ステータスページを監視し、更新があると即座にツイートする仕組みになっています。スマートフォンで通知をオンにしておけば、外出中でも障害を素早く察知できます。
SNSでの障害情報の見極め方
SNSには様々な情報が飛び交います。信頼できる情報とそうでない情報を見分けるコツは、以下の通りです。
まず、複数のソースで確認すること。一人だけが言っていることは、その人の環境固有の問題かもしれません。多くの人が同じ症状を報告していれば、広範囲の障害である可能性が高まります。
次に、技術的な詳細が書かれているかどうか。「動かない」だけでなく、「DynamoDBから503エラーが返ってくる」など具体的な情報があれば、信頼度が上がります。
そして、公式アカウントの発表を待つこと。SNSの情報はあくまで「速報」として活用し、最終的な判断は公式情報で行うべきです。
障害発生時の初動対応
障害が発生したとき、最初の30分の対応が、その後の展開を大きく左右します。
自社システムへの影響確認手順
- 監視ツールで異常を検知:CloudWatchなどの監視ツールでアラートが出たら、まず落ち着いて状況を把握しましょう。
- AWS Health Dashboardを確認:自社の問題なのか、AWS側の問題なのかを切り分けます。ダッシュボードで広範囲の障害が報告されていれば、AWS側の問題です。
- 影響範囲の特定:どのサービスが使えないのか、どの機能が止まっているのかをリストアップします。今回の障害では、DynamoDBを使っている機能が全て影響を受けました。
- 代替手段の検討:完全復旧を待つしかない場合もありますが、一時的な回避策がある場合もあります。例えば、キャッシュに残っているデータで一部機能を提供し続けるなどです。
顧客への連絡タイミング
これは非常に難しい判断です。早すぎる連絡は顧客を不安にさせますし、遅すぎると「対応が遅い」と批判されます。
基本的な考え方は、「顧客が気づく前に伝える」ことです。ウェブサイトのトップページにメンテナンス情報を掲載し、SNSで状況を発信します。メールでの一斉通知は、状況が明確になってからでも遅くありません。
今回の障害で高く評価された企業は、「AWSで障害が発生しており、現在復旧を待っています」と正直に伝えた企業でした。隠さず、誠実に対応することが、長期的な信頼につながります。
復旧見込みの伝え方
「いつ復旧するのか」は、誰もが知りたい情報です。しかし、AWS側の障害の場合、正確な復旧時刻を予測するのは不可能です。
おすすめの伝え方は、「AWSの公式発表によれば、現在復旧作業中とのことです。状況が分かり次第、随時お知らせいたします」という形です。曖昧な時刻を伝えて、それを過ぎても復旧しないと、さらに信頼を失います。
定期的な続報も重要です。30分おき、1時間おきなど、決めた間隔で状況を更新しましょう。「進展がない」という報告も、顧客にとっては「放置されていない」という安心材料になります。
原因別の障害対策マニュアル
AWS障害への対策は、予算や企業規模によって異なります。ここでは、実践的な対策方法を段階的に解説します。
マルチAZ構成とは
同一リージョン内での冗長化
マルチAZ(Multi-Availability Zone)構成は、一つのリージョン内にある複数のデータセンター(AZ)にシステムを分散配置する方法です。
AWSの東京リージョンには、複数のAZがあります。それぞれのAZは、数キロから100キロほど離れた場所にあり、独立した電源とネットワークを持っています。つまり、一つのAZで停電が起きても、他のAZは影響を受けないように設計されているのです。
メリット:自動フェイルオーバー
マルチAZ構成の最大の利点は、自動フェイルオーバー機能です。例えば、RDS(データベースサービス)をマルチAZ構成にすると、メインのデータベースに問題が発生した際、自動的に別のAZのバックアップに切り替わります。
切り替わりにかかる時間は通常1〜2分程度。完全にゼロダウンタイムではありませんが、手動で復旧作業を行うよりも遥かに早く、サービスを再開できます。
ある金融系企業では、マルチAZ構成のお�げで、過去の障害時にもユーザーがほとんど影響を感じなかったそうです。「一瞬接続が切れたかな、と思ったら、すぐに戻りました」という程度だったとのこと。
デメリット:コスト増加(1.5〜2倍)
ただし、マルチAZ構成には追加コストがかかります。同じシステムを複数のAZで動かすため、サーバー費用がほぼ倍になります。データの同期にも通信コストが発生します。
RDSのマルチAZオプションは、シングルAZと比べて約2倍の料金です。EC2の場合、自分で複数のAZにインスタンスを配置する必要があり、管理の手間も増えます。
導入すべき企業の条件
マルチAZ構成を検討すべき企業は、以下のような特徴があります。
- サービス停止が直接的な損失につながるECサイトや決済サービス
- SLA(サービス品質保証)で高い稼働率を約束している企業
- 顧客データを扱い、信頼性が重視される医療・金融系サービス
逆に、社内システムで短時間の停止が許容できる場合や、予算が限られているスタートアップでは、マルチAZ構成は過剰かもしれません。
マルチリージョン構成とは
地理的に離れた拠点の活用
マルチリージョン構成は、マルチAZよりもさらに広い範囲での冗長化です。例えば、東京リージョンと大阪リージョン、またはシンガポールリージョンなど、地理的に大きく離れた場所にシステムを配置します。
この構成の真価が発揮されるのは、広域災害時です。2011年の東日本大震災のような大規模災害が起きても、西日本のシステムは動き続けられます。
メリット:広域災害にも対応
マルチリージョン構成の最大のメリットは、リージョン全体が停止するような事態にも対応できることです。今回の10月20日の障害でも、US-EAST-1が止まっても、他のリージョンで稼働しているシステムは影響を受けませんでした。
グローバルにサービスを展開する企業にとっても必須の構成です。日本のユーザーは東京リージョン、米国のユーザーはUS-EAST-1リージョンというように、ユーザーに近い場所からサービスを提供することで、レスポンス速度も向上します。
デメリット:高コスト、レイテンシ増加
しかし、マルチリージョン構成は非常にコストがかかります。システム全体を複数のリージョンで動かすため、インフラ費用は2倍以上になります。加えて、リージョン間のデータ転送費用も高額です。
技術的な難しさもあります。リージョン間のネットワーク遅延(レイテンシ)は、AZ間よりも大きくなります。東京とシンガポールの間では、数十ミリ秒から100ミリ秒以上の遅延が発生します。
リアルタイム性が求められるゲームや金融取引では、この遅延が致命的になる場合があります。データの整合性を保つことも難しくなります。
金融機関など重要システム向け
マルチリージョン構成が必要なのは、以下のような企業です。
- 銀行や証券会社など、サービス停止が社会的影響を与える金融機関
- 大規模なECサイトで、数時間の停止で億単位の損失が出る企業
- 医療記録など、データ損失が許されないシステム
ある大手銀行では、東京と大阪の両方にシステムを配置し、片方が止まっても即座に切り替えられる体制を整えています。年間のインフラ費用は数億円規模ですが、信頼性には代えられないとのことです。
バックアップ戦略
マルチAZやマルチリージョンは高度な対策ですが、全ての企業ができるわけではありません。最低限やるべきは、適切なバックアップ戦略です。
定期的な自動バックアップ設定
AWSには、様々なバックアップ機能が用意されています。EC2のAMI(マシンイメージ)、RDSの自動バックアップ、EBSスナップショットなど、それぞれのサービスに応じた方法があります。
重要なのは、「自動化」することです。手動でバックアップを取ろうとすると、つい忘れてしまいます。毎日深夜2時に自動実行、というように設定しておけば、確実にバックアップが取られます。
別リージョンへのデータ保存
さらに重要なのが、バックアップの保存先です。東京リージョンでシステムを動かしているなら、バックアップは大阪リージョンや海外のリージョンに保存すべきです。
同じリージョン内にバックアップを置いていると、リージョン全体の障害時に、バックアップも失われる可能性があります。これでは意味がありません。
S3(ストレージサービス)には、リージョン間でのデータ複製機能があります。設定一つで、自動的に別リージョンにコピーしてくれるので、手間もかかりません。
復旧テストの重要性
バックアップを取っているだけでは不十分です。「実際に復旧できるか」を定期的にテストする必要があります。
ある企業では、毎月1回、本番環境とは別の場所でバックアップからの復旧テストを実施しています。実際に障害が起きたとき、慌てずに復旧手順を実行できるのは、この訓練のおかげです。
復旧テストでは、「どのくらい時間がかかるか」も計測しましょう。「バックアップから復旧するのに6時間かかる」と分かっていれば、顧客への説明もしやすくなります。
監視体制の構築
障害を早期に検知し、迅速に対応するには、適切な監視体制が欠かせません。
CloudWatchアラームの設定
AWSのCloudWatchは、様々なメトリクス(測定値)を監視できるサービスです。CPU使用率、ディスク容量、エラー発生回数など、気になる指標にアラームを設定できます。
例えば、「エラー率が5%を超えたら通知」「応答時間が3秒を超えたら通知」というように設定します。閾値(しきいち)を適切に設定することが重要です。厳しすぎると誤報が多くなり、緩すぎると重大な問題を見逃します。
通知先は、メール、SMS、Slackなど、自社の運用体制に合わせて選べます。重大度に応じて通知先を変えるのも有効です。軽微な警告はSlackに、重大なエラーは電話に、という具合です。
24時間365日監視の実現方法
理想は24時間365日、誰かが監視している体制ですが、中小企業には難しいかもしれません。そこで活用したいのが、外部の監視サービスです。
Datadogや Mackerelなどの監視SaaSを使えば、専門チームが24時間体制で監視してくれます。異常を検知したら、担当者に自動で連絡が行きます。
社内で対応する場合は、当番制にするのが現実的です。平日昼間は担当A、夜間は担当B、休日は担当C、というローテーションを組みます。
異常検知の自動化
最近では、機械学習を使った異常検知も登場しています。通常のパターンを学習し、そこから外れた動きを自動で検知してくれる仕組みです。
CloudWatch Anomaly Detection(異常検知)機能を使えば、過去のデータから正常範囲を自動で判断してくれます。人間が閾値を設定するよりも、精度の高い監視が可能になります。
企業が今すぐできる3つの対策
ここまで様々な対策を紹介してきましたが、「具体的に何から始めればいいのか」と悩む方も多いでしょう。予算別に、実践的な対策ロードマップを提示します。
低予算でできる対策(月5万円以内)
最低限のバックアップ設定
まず確実にやるべきは、バックアップです。AWS Backupサービスを使えば、月数千円から自動バックアップを設定できます。
1日1回、深夜にRDSとEC2のバックアップを取る設定なら、月2〜3万円程度です。バックアップの保存先を別リージョンにすることも忘れずに。
監視ツールの導入
CloudWatchの基本的な監視は、AWSの利用料金に含まれています。追加費用なしで、基本的なメトリクスを監視できます。
カスタムメトリクス(独自の測定値)を追加する場合も、月数千円から可能です。例えば、「注文数」「ログイン数」など、ビジネス的に重要な指標を監視に加えましょう。
障害時連絡フローの整備
これはお金をかけずにできる対策です。「障害が起きたら、誰が、誰に、何を伝えるか」を文書化しておきます。
- 監視担当者の連絡先リスト
- エスカレーション(上層部への報告)基準
- 顧客への連絡文のテンプレート
- AWS Health Dashboardの確認方法
A4用紙1〜2枚にまとめて、チーム全員が見られる場所に置いておきましょう。障害時は誰もが慌てます。事前に手順を決めておくことで、冷静に対応できます。
中規模企業向け対策(月20万円程度)
マルチAZ構成への移行
予算に余裕があれば、マルチAZ構成を検討しましょう。特にRDSは、設定一つでマルチAZ化できるので、導入のハードルが低いです。
EC2も、Application Load Balancer(負荷分散装置)を使って、複数のAZにサーバーを配置できます。初期の設計変更が必要ですが、一度構築すれば、運用の手間はほとんど変わりません。
自動復旧システムの構築
CloudWatch Alarmと連携して、自動復旧の仕組みを作りましょう。例えば、EC2インスタンスが停止したら、自動で再起動する設定が可能です。
Lambda関数(プログラムを実行するサービス)を使えば、より高度な自動対応もできます。「エラーが発生したら、バックアップシステムに切り替える」といった処理を自動化できます。
定期的な障害訓練
年に2回程度、本番を想定した障害訓練を実施しましょう。わざとシステムの一部を停止させて、チームがどう対応するかを確認します。
訓練後は必ず振り返りを行い、問題点を洗い出します。「連絡が遅れた」「手順書が古かった」など、実際にやってみて初めて分かることが必ずあります。
大企業向け対策(月50万円以上)
マルチリージョン構成
重要なシステムは、マルチリージョン構成を検討すべきです。東京と大阪、または東京とシンガポールなど、地理的に離れた場所にシステムを配置します。
データベースの同期や、ユーザーを適切なリージョンに振り分けるルーティングなど、技術的な難易度は高いですが、最高レベルの可用性を実現できます。
マルチクラウド戦略
AWSだけに依存するリスクを分散するため、Google CloudやMicrosoft Azureなど、複数のクラウドを併用する企業も増えています。
メインシステムはAWS、バックアップシステムはGoogle Cloudというように、役割を分けます。一方のクラウドで障害が起きても、もう一方で業務を継続できます。
ただし、マルチクラウドは運用の複雑性が大幅に増します。それぞれのクラウドに精通したエンジニアが必要になり、人件費も考慮する必要があります。
専任チームの設置
大規模なシステムでは、インフラ専任のチームを設置すべきです。24時間365日の監視体制、障害対応チーム、改善提案チームなど、役割を分けて運用します。
ある大手企業では、10名規模のインフラチームがAWSを専門に管理しています。障害時は即座に対応し、平常時はシステムの改善と最適化を進めています。
個人ユーザーができる備え
企業だけでなく、個人のユーザーもAWS障害の影響を受けます。自分でできる備えを考えてみましょう。
代替サービスの準備
複数のコミュニケーションツール
仕事や友人との連絡に、一つのツールだけに頼るのは危険です。Slackが使えないときはTeamsやDiscordを、Zoomが使えないときはGoogle Meetを、というように、複数のツールを準備しておきましょう。
重要な連絡先は、電話番号やメールアドレスも控えておくと安心です。全てのツールが止まることは稀ですが、万が一に備えることが大切です。
異なるクラウドストレージの併用
写真や大切なファイルは、複数のクラウドに保存しましょう。Google Drive、Dropbox、iCloud、OneDriveなど、それぞれ異なる会社が運営しています。
一つのサービスで障害が起きても、他のサービスからデータを取り出せます。完全な重複保存は容量の無駄に思えますが、データ損失のリスクを考えれば、許容できる範囲でしょう。
オフライン機能の活用
多くのアプリには、オフラインでも使える機能があります。例えば、Googleマップは事前に地図をダウンロードしておけば、オンラインでなくても使えます。
音楽アプリも、プレイリストをダウンロードしておけば、ストリーミングできないときでも聴けます。普段からオフライン機能を意識して使うことで、障害時の影響を減らせます。
重要データの保護
ローカルバックアップの取得
クラウドは便利ですが、全てをクラウドに任せるのはリスクがあります。本当に大切なデータは、外付けハードディスクやUSBメモリにもコピーしておきましょう。
写真、動画、仕事の書類、思い出のファイル——失ったら二度と戻らないものは、物理的なバックアップも取っておくべきです。
定期的なデータダウンロード
クラウドサービスは便利ですが、永遠に続く保証はありません。サービスが終了したり、アカウントが何らかの理由で停止されたりする可能性もゼロではありません。
月に一度、または半年に一度など、定期的にデータをダウンロードする習慣をつけましょう。特に、思い出の写真や重要な書類は、手元にコピーを持っておくと安心です。
複数箇所への分散保存
理想的なバックアップ戦略は「3-2-1ルール」と呼ばれています。
- 3つのコピーを持つ(オリジナル+バックアップ2つ)
- 2種類の異なる媒体に保存する(クラウド+ローカルなど)
- 1つは物理的に離れた場所に置く(自宅+実家、など)
完璧に実行するのは難しいですが、この考え方を意識するだけでも、データ損失のリスクは大きく減ります。
今回の障害から学ぶ教訓
10月20日のAWS障害は、私たちに多くの教訓を残しました。この経験を無駄にしないためにも、何を学ぶべきかを整理しておきましょう。
クラウドは万能ではない
100%の稼働率は存在しない
AWSのようなクラウドサービスは、高い信頼性で知られています。しかし、「100%絶対に止まらない」サービスは、この世に存在しません。
AWSのSLA(サービス品質保証)でも、99.99%の稼働率を保証しているサービスがありますが、これは年間で約52分の停止を許容する計算になります。今回の障害は3時間でしたから、年間の許容範囲を一度に使い切ってしまったことになります。
「障害は必ず起きる」前提の設計
AWSのCTO(最高技術責任者)であるヴェルナー・ヴォーゲルス氏は、こう述べています。「障害は発生するものであり、最終的にはすべてが時間の経過とともに故障します」
この言葉は、AWS自身が「完璧なシステムは不可能」と認めていることを示しています。私たちも、この現実を受け入れ、障害が起きることを前提にシステムを設計すべきです。
依存度の見直しの重要性
今回の障害で、多くの企業が「AWSへの依存度が高すぎた」と反省しています。便利だからと全てをAWSに集約していたシステムは、今回のように全面的な影響を受けました。
依存度を下げる方法はいくつかあります。重要な機能だけはオンプレミス(自社サーバー)に残す、マルチクラウドを採用する、代替サービスを準備しておく——どの方法が適切かは、企業によって異なります。
分散投資の考え方
単一ベンダーへの依存リスク
投資の世界には「卵を一つのカゴに盛るな」という格言があります。これは、ITインフラにも当てはまります。
AWSだけ、Googleだけ、Microsoftだけ——一つのベンダーに全てを任せると、そのベンダーで問題が起きたときに、全てが止まってしまいます。複数のベンダーを組み合わせることで、リスクを分散できます。
マルチクラウド戦略の有効性
マルチクラウド戦略は、複数のクラウドサービスを併用するアプローチです。メインシステムはAWS、データ分析はGoogle Cloud、開発環境はAzure、というように役割を分けます。
この戦略の利点は、一つのクラウドで障害が起きても、他は動き続けられることです。また、それぞれのクラウドの得意分野を活かせるというメリットもあります。
ただし、管理の複雑性とコストは増加します。それぞれのクラウドの使い方を学ぶ必要があり、エンジニアの負担も大きくなります。費用対効果を慎重に検討すべきです。
コストと可用性のバランス
完璧な可用性を求めれば、コストは天井知らずに膨らみます。現実的には、「どこまでのリスクを許容するか」を決める必要があります。
例えば、年に1回、数時間の停止なら許容できるサービスと、1分の停止も許されないサービスでは、必要な対策レベルが全く異なります。
自社のサービスが、どの程度の可用性を必要としているのかを見極めることが、適切な投資につながります。
継続的な改善の必要性
障害後の振り返り(ポストモーテム)
障害が復旧したら、必ず振り返りを行いましょう。ポストモーテム(事後検証)と呼ばれるこの作業は、次の障害を防ぐために極めて重要です。
振り返りでは、以下の点を記録します。
- 何が起きたのか(事実の時系列)
- なぜ起きたのか(根本原因)
- 誰が何をしたのか(対応の記録)
- 何がうまくいったのか
- 何がうまくいかなかったのか
- 今後どう改善するのか
重要なのは、「犯人探し」にしないことです。誰かを責めるのではなく、システムをどう改善するかに焦点を当てましょう。人は必ずミスをします。ミスをしても大きな問題にならない仕組みを作ることが、本当の解決策です。
システム設計の定期的な見直し
一度構築したシステムも、定期的に見直す必要があります。ビジネスの成長とともに、システムの重要度も変わるからです。
創業当時は数時間の停止も許容できたサービスが、ユーザーが増えた今では1分の停止も許されなくなっているかもしれません。そうなれば、より高度な冗長化が必要になります。
半年に一度、または年に一度、システムアーキテクチャ(設計)の見直し会議を開きましょう。「今の構成で十分か」「新しい対策は必要か」を議論する場を設けることが大切です。
最新の障害事例の学習
他社の障害事例からも、多くを学べます。AWSは、大規模障害が起きると、ポストイベントサマリー(事後報告書)を公開します。これを読むことで、「自社でも同じことが起こり得るか」を検討できます。
技術ブログやカンファレンスでも、障害対応の事例が共有されています。「○○社はこうやって障害を乗り越えた」という話は、自社の対策を考える上で貴重な参考資料になります。
学んだことは、チーム内で共有しましょう。障害対応は、一人の知識ではなく、チーム全体の力で行うものです。
2026年以降のAWS障害予測
最後に、今後どのような障害が起こり得るのかを考えてみましょう。予測することで、事前の備えができます。
専門家が予測する次の大規模障害シナリオ
クラウド専門家の間では、いくつかの「起こり得るシナリオ」が議論されています。
シナリオ1:マルチリージョン同時障害
今回の障害はUS-EAST-1という単一リージョンでしたが、もし複数のリージョンで同時に障害が起きたらどうでしょうか。
可能性としては低いですが、グローバルなネットワーク障害や、全リージョンに影響する制御システムの不具合などが考えられます。この場合、マルチリージョン構成でも対応できない可能性があります。
シナリオ2:長期化する障害
今回は3時間で復旧しましたが、もっと長引く障害も想定すべきです。2021年12月の障害では、完全復旧まで半日以上かかりました。
数日間続く障害が起きた場合、バックアップからの完全移行や、他のクラウドへの緊急移転なども検討が必要になるかもしれません。
シナリオ3:セキュリティ攻撃による障害
今回は技術的な問題でしたが、大規模なサイバー攻撃によってクラウドサービスが停止する可能性もゼロではありません。
DDoS攻撃(大量のアクセスでサーバーを停止させる攻撃)や、より巧妙な攻撃手法によって、クラウドのインフラが狙われる可能性は、今後も増加すると予想されています。
今後の対策として考えるべきこと
これらのシナリオに備えるには、以下のような対策が考えられます。
- オフライン機能の充実:クラウドに繋がらなくても、最低限の機能は動くようにする
- ローカルキャッシュの活用:頻繁に使うデータは手元に保存しておく
- 段階的な依存度低下:すぐには難しくても、長期的にクラウド依存を減らす計画を立てる
- エッジコンピューティングの活用:処理をクラウドだけでなく、端末側でも行う
技術は日々進化しています。新しい対策手法も次々と登場するでしょう。常にアンテナを張り、最新の情報をキャッチアップすることが、将来の障害に備える最善の方法です。
まとめ:AWS障害から学ぶこれからの備え
2025年10月20日16時11分に発生したAWS障害は、現代社会がいかにクラウドサービスに依存しているかを改めて認識させる出来事となりました。
今回の障害の重要ポイント
- 発生原因:DynamoDB APIエンドポイントのDNS解決問題
- 発生場所:US-EAST-1リージョン(米国バージニア州北部)
- 発生時刻:2025年10月20日16時11分(日本時間)
- 復旧時刻:19時30分頃、約3時間20分の障害
- 影響範囲:35以上のAWSサービス、世界中の数千のアプリケーション
DNSという「インターネットの住所録」が機能しなくなったことで、データは無事に保存されていたにもかかわらず、誰もアクセスできない状態になりました。専門家が「インターネットの記憶喪失」と表現したこの障害は、クラウドインフラの脆弱性を浮き彫りにしました。
影響を受けた主なサービス
ゲームでは、フォートナイト、パルワールド、任天堂Switch Onlineなどが停止しました。ビジネスツールでは、Slack、Zoom、Asanaなどが使えなくなり、多くの企業の業務に支障が出ました。日常生活でも、Alexa、Snapchat、マクドナルドアプリなど、幅広いサービスが影響を受けています。
これから取るべき対策
企業は、マルチAZ構成やマルチリージョン構成など、システムの冗長化を検討すべきです。予算に応じて、できる範囲から対策を始めることが重要です。
最低限の対策として、定期的なバックアップ、監視体制の構築、障害時の連絡フローの整備は、どの企業にも必要です。中規模以上の企業では、マルチAZ構成や定期的な障害訓練も検討すべきでしょう。
個人ユーザーも、複数のサービスを併用する、重要なデータはローカルにもバックアップを取るなど、自分でできる備えがあります。
最も大切な教訓
今回の障害から得られる最大の教訓は、「クラウドは便利だが万能ではない」ということです。100%の稼働率は存在せず、障害は必ず起きます。
大切なのは、障害が起きることを前提にシステムを設計し、備えることです。「AWSが落ちたら終わり」ではなく、「AWSが落ちても最低限の機能は動く」仕組みを作ることが、これからの時代に求められています。
今回の10月20日のAWS障害は、世界中の企業と個人に、デジタル依存社会のリスクを突きつけました。しかし同時に、適切な備えをすることで、そのリスクを大幅に減らせることも示しています。
この記事で紹介した対策を参考に、自社や自分自身のシステムを見直してみてください。次の障害が起きたとき、今日の備えが必ず役に立つはずです。
参考リンク
本記事の情報は2025年10月20日時点のものです。最新の障害状況や対策については、AWS公式サイトをご確認ください。
【総括】10月20日AWS障害の原因と対策まとめ
2025年10月20日AWS障害の原因について
- 発生日時:2025年10月20日16時11分(日本時間)、約3時間20分継続
- 根本原因:US-EAST-1リージョンのDynamoDB APIエンドポイントにおけるDNS解決問題
- 技術的要因:インターネットの「住所録」であるDNSが機能不全に陥り、データは無事でもアクセス不能な状態に
- 障害の連鎖:DynamoDBから35以上のAWSサービスへ連鎖的に影響が拡大
- 構造的問題:US-EAST-1リージョンへの一極集中と、グローバルサービスの依存関係が被害を拡大
- 過去との比較:2021年9月の東京Direct Connect障害(6時間)、2023年6月のLambda障害など、過去にも同様の大規模障害が発生
- 復旧プロセス:18時01分に原因特定、19時頃から段階的復旧、19時30分にほぼ完全復旧
10月20日AWS障害で影響を受けたサービスと対策について
- ゲーム系の影響:フォートナイト(ログイン不可)、パルワールド(接続不安定)、任天堂Switch Online(全面障害)など
- ビジネスツールの影響:Slack(ハドル機能停止)、Zoom(起動不可)、Asana・Canva(サーバーエラー)など
- 日常サービスの影響:Alexa(応答不能)、Snapchat、マクドナルドアプリ、クックパッドなど生活全般に波及
- 障害確認方法:AWS Health Dashboard(公式)、Downdetector(ユーザー報告)、Twitter(@awsstatusjp)の3つを併用
- 初動対応の重要性:障害発生から30分以内の情報収集と顧客連絡が、その後の信頼関係を左右
- 企業の対策(低予算):月5万円以内で最低限のバックアップ設定、監視ツール導入、連絡フロー整備が可能
- 企業の対策(中規模):月20万円程度でマルチAZ構成への移行、自動復旧システム構築、定期的な障害訓練を実施
- 企業の対策(大規模):月50万円以上でマルチリージョン構成、マルチクラウド戦略、専任チーム設置が理想
- 個人の備え:複数のコミュニケーションツール準備、異なるクラウドストレージ併用、重要データのローカルバックアップ
- 根本的教訓:クラウドは万能ではなく、100%の稼働率は存在しない。「障害は必ず起きる」前提のシステム設計が不可欠
- 継続的改善:障害後のポストモーテム実施、システム設計の定期的見直し、最新障害事例からの学習が重要
- 将来予測:マルチリージョン同時障害、長期化する障害、セキュリティ攻撃による障害など、より深刻なシナリオへの備えが必要
今すぐ実践すべきアクション
- 企業担当者:AWS Health Dashboardをブックマークし、自社システムの冗長化レベルを今すぐ確認
- 経営層:現在のAWS依存度を評価し、マルチクラウド戦略の検討会議を来月中に開催
- エンジニア:障害時の連絡フローを文書化し、チーム全員が見られる場所に配置
- 個人ユーザー:重要な写真・書類を今週中に外付けHDDまたは別クラウドにバックアップ
- 全ての人:「AWSが落ちたらどうなるか」を一度シミュレーションし、代替手段を準備
2025年10月20日のAWS障害は、現代社会のクラウド依存を可視化する出来事となりました。この記事で紹介した原因分析と対策を参考に、次の障害に備えましょう。
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